2014年10月8日水曜日
◆下川博『竹に紅虎』
「焼き物の話だよ」と聞いて読み始めたのですが、いろいろ予想外の方向にいってしまいびっくりしてしまった作品でした。
良い所としては、景徳鎮との関係とか、磁器を作っているのに家では木の皿だとか、細かい部分がおもしろかったです。
気になる所は、竹に紅虎という名でありながら、作品の中でこの皿があまり機能していなかったということ。唐子の皿と一緒に出てきて、この皿の魅力が唐子皿に取られてしてしまったように感じました。
不勉強なので竹に紅虎の皿が現実の有田焼として存在するのかをしりませんが、紅虎なら紅虎、唐子なら唐子と、一つにしぼって登場させた方が良かったような気がします。
いったい全体、この話はどこまで本当なのでしょう?柿右衛門は有名ですが、この話に出てきたように女性が中心になって有田焼を作っていたとは、実際に有田に行っても聞いたことが無かったのです。
作者の作り話であるならば、なんだか話が中途半端です。小さな有田で起きることを丁寧に描いていたはずが、いきなり中国が登場し、更にイスラムの国まで話が広がっていく。急に家族はばらばらになり、違う世界の人間になってしまう。それはスケールが大きくなったというよりも、話の手綱が切れて暴走したように私には思えました。更に言うと、気持ちを込めて送った手紙は結局届かない。命をかけて帰国した者はあっさり死ぬ。対立した母と娘は仲直りできないまま死に別れ。大事な胡弓はあっけなく壊れる。これを「時は残酷」、とか言ってまとめていいのかあまり納得できません。井上靖『天平の甍』の僧の徒労は胸に響いたのだけれど、描き方が急なので今回の作品は気持ちが付いていかず「なにこれ~」と思ってしまいました。
特に後半、話の描き方が飛び飛びになります。簡単に10年20年過ぎてしまい、数ページ前で小さい子供だったのがお婆さんになってしまうなど、あまりのスピードに心が付いていきません。愛着をもって読んでいた登場人物の孝左がいきなり死んだことになっていたのは驚きました。せっかくのキャラの扱いが軽すぎませんかねえ?お奉行も好きだったのにいつの間にか死んでた。
歴史に残る皿を作ったシーンや、母と娘のぶつかるシーンなど、大切な場面をはしょったり、伝聞で描くのではなく、正面から描いて欲しかった。私ならばもっと劇的に表現するだろうと思う部分をあっけないほどさらっと描いてあって拍子抜けてしまう。私は劇的なクライマックスがあって「じーん」となるのが好きなので、たぶんこの作品が私と波長が合わないのでしょう。
非常に面白いテーマだっただけに、小さな後進の有田が景徳鎮をまねした上で新しい境地へ飛び立つところをもっと丁寧に描いて欲しかったと思います。このように書くと池井戸潤さんに向いている題材かもしれませんね。江戸版『下町ロケット』って感じかな。
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