2015年2月3日火曜日

◆森茉莉『私の美の世界』


女性作家で好きなのは幸田文です。幸田露伴の娘として生まれ、生母亡き後、父露伴から掃除の仕方や料理の仕方などを厳しく仕込まれた、経験に裏打ちされた言葉の重みを伝える明治の女。早くに亡くなった姉・弟と自分を比べ、自分はみそっかすだと劣等感を抱きつつ、露伴に最後まで仕え、見送った文。本人はみそっかすと思っていても、私から見ると、露伴は文という娘を得たからこそ露伴の存在を今に残していると思います。私自身露伴の作品はほとんど読んだことがないですが、露伴という人間の深さ・豊かさは幸田文の作品を通して見ることができると思っています。


一方、同じく文豪森鴎外を父をもちながら、鴎外に一番愛され苦労をなんにも知らずに生きてきた茉莉。文が明治の女ならば、茉莉もまた、平成の今には絶対にいない純粋培養された世間知らずの明治の女。私の好みには合いませんが、どうしても彼女の作品は断捨離できずに取ってありました。

彼女の作品は彼女の母が出てくるシーンが一番良いと思います。鴎外の後妻であるしづ(だったかな)はとても美しい人で、私の思う「ザ・明治の女」。失われた明治の空気が濃厚に感じられる。舶来のビスケットやケーキの話や、スーツの色やボタンなど、ノスタルジーやこだわりを語る部分にとても魅力を感じます。

逆に、茉莉さんが政治批判をするとびっくりするほど薄っぺらい。茉莉さんは卵がどーとか、いかしたパリの男の話をしてくれるのが一番。貧乏な一人暮らしで夢の世界にどっぷり漬かってああでもないこうでもないと空想しているのがいいのです。それ以外はだめ!

★★★☆☆

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